今回は法人契約の生命保険の仕訳【定期保険と終身保険】について解説します。
保険制度とは?
まず保険制度について解説します。
保険は大きく下記2つに分類されます。
【公的保険】
国や地方公共団体が運営している保険
【私的保険】
民間の保険会社が運営している保険
そして私的保険はさらに下記にように分類されます。
【生命保険】
※第一分野の保険
人の生死に関して保証する定額給付の保険
(例)定期保険・終身保険・養老保険など
【損害保険】
※第二分野の保険
事故で発生した損害を補てんする保険
(例)火災保険・自賠責保険・自動車保険など
【第三分野の保険】
上記どちらにも属さない保険。ケガや病気に備える保険。
(例)医療保険・介護保険・がん保険
今回解説するのは法人契約の【生命保険】の仕訳処理になります。
通常の保険料の仕訳処理
火災保険など通常の保険料であれば「保険料」「支払保険料」などの費用で計上します。
※ただし、翌期以降の費用であれば「前払費用(資産)」として計上します。
(1) | 保険料 (費用) | 1,200 | / | 現金 | 1,200 |
(2) | 前払費用 (資産) | 500 | / | 保険料 (費用) | 500 |
↓[前払費用]に関しては解説は下記をご覧ください。
上記は日商簿記3級で出題される内容となります。
生命保険の仕訳処理
上記の保険の仕訳に対して、生命保険の場合
保険の種類や契約形態によって経理処理が異なります。
生命保険の場合は下記のような経理処理を行います。
- 貯蓄性のない保険
(定期保険など)
→損金に算入 - 貯蓄性のある保険
(終身保険・養老保険・年金保険など)
→資産で計上
※ただし、受取人が被保険者またはその遺族の場合は損金で処理します
損金とは税務上の費用のことです。
他の保険と大きく違うのは
生命保険の場合、費用ではなく、資産として処理する場合があるということです。
今回は上記の中の【定期保険と終身保険】について解説します。
貯蓄性のない保険(定期保険)の場合
貯蓄性のない保険(定期保険)の場合は
「損金」として計上します。
そのため仕訳としては下記のような仕訳で処理します。
保険料 (損金) | / | 現金・預金 |
しかし、2019年7月8日より下記のような改正が行われました。
2019年7月8日の改正
保険期間が3年以上の定期保険(または第三分野保険)で
最高解約返戻率50%超の保険については、
下記の区分に応じ損金算入に制限が加えられることになりました。
この改正により解約返戻率の大きさによって、資産・損金計上の割合が定められ、経理処理が少し複雑となりました。
例題①
(解答)
保険料 (損金) | 5,000,000 | / | 現金 | 5,000,000 |
最高解約返戻率は50%以下のため
全額損金(会計上では費用)として処理します。
例題②
(解答)
◆1-8年目の仕訳
前払保険料 (資産) | 2,000,000 | / | 現金 | 5,000,000 |
保険料 (損金) | 3,000,000 | / |
◆9-15年目の仕訳
保険料 (損金) | 5,000,000 | / | 現金 | 5,000,000 |
◆16年目以降の仕訳
保険料 (損金) | 5,000,000 | / | 現金 | 5,000,000 |
保険料 (損金) | 3,200,000 | / | 前払保険料 (資産) | 3,200,000 |
(解説)
下記を順に考えていきましょう。
- ①資産計上時期
- ②資産計上額
- ③取崩期間
問題文より最高解約返戻率は60%のため
[50%-70%以下]に区分されます。
【①資産計上時期】
最高解約返戻率は[50%-70%以下]に区分されるため
保険期間の40%が[資産計上時期]となります。
- 保険期間20年×40%=8年(資産)
- 20年-8年=12年(損金)
【②資産計上額】
保険期間の40%である1-8年目までは下記のように資産計上します。
- 年間保険料5,000,000円×40%=2,000,000円(資産)
- 年間保険料5,000,000円×60%=3,000,000円(損金)
※1-8年目の資産・損金(費用)の計上額
そのため1-8年目の仕訳は下記になります。
前払保険料 (資産) | 2,000,000 | / | 現金・預金 | 5,000,000 |
保険料 (損金) | 3,000,000 | / |
また9年目以降は損金計上するため下記のようになります。
保険料 (損金) | 5,000,000 | / | 現金・預金 | 5,000,000 |
【③取崩期間】
上記の資産は保険期間75%経過後から終了日まで費用へ取り崩していきます。
- 保険期間20%×75%=15年
1-8年目で計上した資産(前払費用)を
16年-20年の期間で取り崩します。
- 前払保険料(1年間)2,000,000×8年=16,000,000円
- 16,000,000円÷5年=3,200,000円
※16年目~終了日20年の5年間
そのため取り崩しの仕訳は下記となります。
保険料 (損金) | 3,200,000 | / | 前払保険料 (資産) | 3,200,000 |
しかし、9年目以降の損金計上の仕訳もあるので、
それと合わせると下記のようになります。
保険料 (損金) | 5,000,000 | / | 現金 | 5,000,000 |
保険料 (損金) | 3,200,000 | / | 前払保険料 (資産) | 3,200,000 |
上:9年目以降の全額損金算入の仕訳
下:16年目以降の資産の取り崩しの仕訳
このように解約返戻率が50%超えの場合は経理処理が少し複雑となります。
貯蓄性のある保険(終身保険)の場合
貯蓄性のある保険とは
終身保険・養老保険・年金保険などが該当します。
貯蓄性のある保険は下記のように処理します。
貯蓄性のある保険の経理処理
◆受取人が[法人]の場合
→資産で計上
◆受取人が[被保険者またはその遺族]の場合
→損金に算入
まとめると下記のようになります。
※ただし、先程述べた通り最高解約返戻率50%が超える場合は一部資産計上が必要となります。
また資産計上する場合の勘定科目は「保険料積立金(資産)」となります。
受取人によって経理処理が異なるので注意しましょう。
このように処理方法が[資産]と[損金]で分かれるのは
解約した時や満期を迎えた時に
「会社にお金が戻ってくるか?」という点によって決められます。
【定期保険】は基本、満期を迎えてもお金は戻ってこない掛け捨てとなります。
そのため全額「損金」で処理します。
対して【終身保険】は、解約返戻金や満期保険金としてお金が戻ってきます。
後にお金が戻ってくるということは資産性が高いため
「資産」として計上します。
ただし、受取人が法人ではない場合、自社にお金が入ってくる訳ではないため
「損金」として処理します。
「会社にお金が戻ってくるか?」を考えると、資産と損金の分類は覚えやすくなるのでしょう。
例題:保険料を支払った時
(解答)
保険料積立金 (資産) | 1,000,000 | / | 現金 | 1,000,000 |
終身保険は貯蓄性があり、受取人が「法人」のため
「保険料積立金」として資産計上します。
例題:保険金を受け取った時
(解答)
普通預金 | 1,200,000 | / | 保険料積立金 (資産) | 1,000,000 |
/ | 雑収入 | 200,000 |
保険金を受け取った時は資産として計上されている「保険料積立金」の取り崩しを行います。
これにより入金額と差額が生じた場合は
雑損失・雑収入で処理します。
保険金額1,200,000-保険料積立金1,000,000=200,000(雑収入)
「保険料積立金」は満期あるいは解約時に取り崩しを行います。
まとめ
今回は法人契約の生命保険の仕訳【定期保険と終身保険】について解説しました。
要点をまとめると下記になります。
- 保険制度は「公的保険」と「私的保険」があります。
- 私的保険は大きく下記に分類される。
- 生命保険※第一分野の保険
- 損害保険※第二分野の保険
- 第三分野の保険
- 生命保険は下記のように経理処理を行います。
- 貯蓄性のない保険
(定期保険など)
→損金に算入 - 貯蓄性のある保険
(終身保険・養老保険・年金保険など)
→資産で計上
※ただし、受取人が被保険者またはその遺族の場合は損金で処理する - 保険期間が3年以上の定期保険(または第三分野保険)で最高解約返戻率50%超の保険については、区分に応じ損金算入に制限が加えられることになった。
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