今回は連結会計の「子会社株式の一部売却」について解説します。
子会社株式の一部売却とは?
株式を取得し支配獲得後に、株式を一部売却することがあります。
これが「一部売却」です。
子会社株式を売却することで
【非支配株主(純資産)】は増加します。
子会社株式の一部売却の会計処理
子会社株式(S社株式)を一部売却した場合、
個別上では下記のような仕訳が起票されます。
(個別上の仕訳)
現金 | / | S社株式 (資産の減少) |
/ | 子会社株式売却益 (収益の増加) |
しかし、連結上ではグループ内の取引を取り消す必要があるため
[貸方]で計上された[S社株式]と[子会社株式売却益]を取り消し
連結上の勘定科目へ振り替えます。
そのため、[借方]で計上し取り消します。
(連結修正仕訳)
借方 | / | 貸方 |
S社株式 | / | ? |
子会社株式売却益 | / | ? |
S社株式が減少することで、連結上では
非支配株主持分(純資産)が増加します。
[非支配株主持分]を算出し、貸方で計上することで増加させます。
そして[売却額]と[非支配株主持分]の差額を
[資本剰余金]で計上します。
最終的な連結修正仕訳は下記になります。
(連結修正仕訳)一部売却
S社株式 | / | 非支配株主持分当期変動額 |
子会社株式売却益 | / | 資本剰余金 |
【一部売却の会計処理】
- 個別上で売却処理した[S社株式]と[売却損益]を取り消す
↑※この合計額が[売却額]である - 連結上の[非支配株主持分]を算出し計上する。
※[非支配株主持分]=[売却時の子会社の純資産]×[売却した時の株式割合(%)]
→上記の差額は「資本剰余金」で処理します。
S社株式 | / | 非支配株主持分当期変動額 |
子会社株式売却益 | / | 資本剰余金(差額) |
例題
(解答)
まず注意すべき点は
- 前期末で支配獲得し
- 当期末で一部売却した。
ということです。つまり当期の連結修正仕訳は
[投資と資本の相殺消去]の開始仕訳が必要となります。
支配獲得日は前期末のため、前期末の純資産の金額で
投資と資本の相殺消去を行います。
①投資と資本の相殺消去※開始仕訳
資本金当期首残高 | 550 | / | S社株式 | 1,400 |
資本剰余金当期首残高 | 150 | / | 非支配株主持分当期首残高 | 260 |
利益剰余金当期首残高 | 600 | / | ||
のれん | 360 | / |
- 前期末のS社株式(60%)800円を減少させるため貸方へ
- S社の資本金550・資本剰余金150・利益剰余金600を減少させるため借方へ
※支配獲得日である前期末の金額を用います。当期末の金額ではないので注意しましょう。 - 80%保有のため、100-80=20%は非支配株主持分
- 株主資本1,300(資本金550+資本剰余金150+利益剰余金600)×20%=260円(非支配株主持分)
- 貸借差額により借方差額360円は「のれん」となる。
上記は前期末X2年3月31日の開始仕訳になります。
下記からは当期末X3年3月31日の連結修正仕訳になります。
②子会社の当期純損益の振替え
非支配株主に帰属する当期純損益 | 40 | / | 非支配株主持分当期変動額 | 40 |
- 子会社の当期純利益は200円です。
- 非支配株主は100-80=20%
- 200円×20%=40円
③のれんの償却
のれん償却額 | 36 | / | のれん | 36 |
- のれん償却額
360÷10年=36
④一部売却
S社株式 | 350 | / | 非支配株主持分当期変動額 | 300 |
子会社株式売却益 | 50 | / | 資本剰余金 | 100 |
- [S社株式]の求め方
取得時の金額から売却分の割合(20%)を計算します。
→取得時(80%)1,400円÷80%×20%=350円 - [売却損益]の求め方
売却額400-S社株式350=50円(売却益) - [非支配株主持分]の求め方
(資本金550+資本剰余金150+利益剰余金800)×20%=300円
※売却割合20% - [資本剰余金]の求め方
貸借差額:350+50-300=100
支配獲得日である[前期末]の純資産の金額は用いないので注意しましょう。
↓上記の仕訳をまとめると下記のようになります。
① | 資本金当期首残高 | 550 | / | S社株式 | 1,400 |
資本剰余金当期首残高 | 150 | / | 非支配株主持分当期首残高 | 260 | |
利益剰余金当期首残高 | 600 | / | |||
のれん | 360 | / | |||
② | 非支配株主に帰属する当期純損益 | 40 | / | 非支配株主持分当期変動額 | 40 |
③ | のれん償却額 | 36 | / | のれん | 36 |
④ | S社株式 | 350 | / | 非支配株主持分当期変動額 | 300 |
子会社株式売却益 | 50 | / | 資本剰余金 | 100 |
資本剰余金がマイナスとなった場合
一部売却による相殺消去で連結上で
資本剰余金がマイナスとなってしまう場合があります。
この場合は資本剰余金の金額を0とし、残りは[利益剰余金]から減額させます。
◆一部売却(資本剰余金がマイナスの場合)
S社株式/S社株式 | / | 非支配株主持分当期変動額 |
子会社株式売却益 | / | |
→利益剰余金 | / |
(資本剰余金の期末残高が負の値になった場合の取扱い)
支配獲得後の親会社の持分変動による差額は資本剰余金とされたことに伴い
(連基30-2項、67-2項より引用)
資本剰余金の期末残高が負の値になる場合があり得る。
この場合は、自己株式等会計基準第 40 項と同様に、連結会計年度末において、資本剰余金を零とし、当該負の値を利益剰余金から減額することとした。
一部売却後の[のれん]の取り扱い
結論から申し上げると
一部売却によっての「のれん」については、特に修正などの処理は行いません。
これは支配が継続している限り、
償却や減損以外では減額するべきではないとされているためです。
また追加取得した場合も同様で
「のれん」の追加計上は行いません。
[一部売却]・[追加取得]で、のれんの修正計上は行いません。
まとめ
今回は連結会計の「子会社株式の一部売却」について解説しました。
要点をまとめると下記になります。
【子会社の一部売却】
- 株式を取得し支配獲得後に、株式を一部売却すること、これが「一部売却」である。
- 個別上で売却処理した[S社株式]と[売却損益]を取り消す
- ↑※この合計額が[売却額]である
- 連結上の[非支配株主持分]を算出し計上する。
- ※[非支配株主持分]=[売却時の子会社の純資産]×[売却した時の株式割合(%)]
- →差額は「資本剰余金」で処理する。
- 当期末に一部売却した場合、[子会社の当期純損益の振替え]は一部売却前の非支配株主割合で行う。
- 一部売却の非支配株主の計算は【一部売却した時】の純資産から求める。
支配獲得日の純資産ではないので注意 - 資本剰余金がマイナスになる場合は、資本剰余金を0とし、利益剰余金から減額させる
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