日商簿記1級

受注制作のソフトウェアの仕訳方法

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ソフトウェアは制作目的のより下記4つに分類されます。

今回は受注制作のソフトウェアの仕訳方法について解説します。

また受注制作のソフトウェアは日商簿記1級の試験範囲になります。

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受注制作のソフトウェア

受注制作のソフトウェア」とは、顧客から注文された特定の仕様により制作するソフトウェアです。

受注制作のソフトウェアは工事契約に関する会計基準に基づき処理します。

「工事契約に関する会計基準」とは?

「工事契約に関する会計基準」は受注から完成・引渡しにかかる期間が長期になる場合に適用される会計基準になります。

建設業の工事契約が主になりますが、「受注制作のソフトウェア」も適用されます。

工事の進行中において進捗部分について

  • 確実性が認められる場合は工事進行基準
  • 認められない場合は工事完成基準

を適用します。

【工事進行基準】

工事の進捗度を見積もり、進捗度に応じて当期の収益および原価を計上します。

工事進捗度の見積りは、原価比例法にて計算します。

【工事完成基準】

工事が完成し引き渡した時点で収益および原価を計上します。

つまり工事が完成するまでは収益および原価は一切計上しないということです。

原価比例法とは、決算日までに実施した工事に関して

発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって決算日における工事進捗度とする方法です。

例えば、全体で100万かかるとされる工事に、当期は20万の費用がかかったとします。

そうすると、全体に占める当期の割合は20%(20÷100=0.2)となります。

「工事契約に関する会計基準」の廃止について

しかし、2021年4月から適用される「収益認識に関する会計基準」により

「工事契約に関する会計基準」は廃止となりました。

ただし、廃止になったからと言って従来の方法と大きく変わるということではありません。

「収益認識に関する会計基準」では下記の要件のいずれかに満たす場合は

一定の期間にわたって収益を認識します。

いすれにも満たない場合は一時点で収益を認識します。

38.次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配を顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する(適用指針[設例 7])。

(1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること

(2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること(適用指針[設例 4])

(3) 次の要件のいずれも満たすこと(適用指針[設例 8])
① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

収益認識に関する会計基準 38項項

上記の要件いずれかに満たせば

一定期間にわたって、つまり工事進行基準

いずれにも満たない場合は

一時点、つまり工事完成基準で処理することになります。

  • 収益を一定の期間にわたり認識する場合→「工事進行基準
  • 収益を一時点で認識する場合→「工事完成基準

受注制作のソフトウェアの仕訳方法

工事進行基準と②工事完成基準の仕訳についてそれぞれ解説します。

代金を受け取ったとき

例題

X1年1月に当社はソフトウェアの制作依頼を収益総額700,000円で請け負い、制作代金の一部10,000円を現金にて受け取った。

(解答)

現金100,000/前受金100,000

受注制作のソフトウェアの代金を一部受け取ったが、まだ未完成のため

前受金(負債)で処理します。

※この時点で前受金の残高:100,000円

「代金を受け取ったとき」では①工事進行基準と②工事完成基準も同じ仕訳になります。

費用が発生したとき

例題

X1年2月材料費2,000円、労務費3,000円、経費1,500円が発生し、現金で支払った。

(解答)

材料費2,000/現金6,500
労務費3,000/
経費1,500/

ここまでは①工事進行基準と②工事完成基準は同じ仕訳になります。

決算時(1年目)

例題

X1年3月決算時、ソフトウェアの制作は未完成である。

なお、収益総額700,000円、見積工事原価総額130,000円で受注している。

①工事進行基準

収益の計上

前受金35,000/売上35,000

原価の振り替え

仕掛品6,500/材料費2,000
/労務費3,000
/経費1,500

売上原価の計上

売上原価6,500/仕掛品6,500

〇工事進捗度

決算日までに発生した原価6,500/原価総額130,000=0.05

〇収益の計上

収益700,000×工事進捗度0.05=35,000

一部代金を受け取っているため、収益の計上の際は売掛金ではなく前受金から取り崩します。

※この時点で前受金の残高:100,000-35,000=65,000円

〇売上原価の計上

また、原価は仕掛品に振り替えて

売上に対応する仕掛品を売上原価へ振り替えます。

②工事完成基準

原価の振り替え

仕掛品6,500/材料費2,000
/労務費3,000
/経費1,500

工事完成基準の場合、完成して引き渡した時に原価および収益を計上するため

未完成の現時点では収益と原価の計上はしません。

実際発生した費用は仕掛品(資産)として残しておきます。

  • 「工事進行基準」では原価に応じて収益を計上します。
  • 「工事完成基準」では原価は仕掛品(資産)へ振り替えて、収益も原価も完成するまでは一切計上しません。

決算時(2年目)

例題

X2年3月決算時、当期に発生したソフトウェア制作による売上原価は78,000円であった。

①工事進行基準

収益の計上

前受金65,000/売上420,000
売掛金355,000

売上原価の計上

売上原価78,000/仕掛品78,000

〇工事進捗度

決算日までに発生した原価(6,500+78,000)/原価総額130,000=0.65

〇収益の計上

収益700,000×0.65=455,000

455,000-前期売上35,000=当期売上420,000

455,000円は前期の売上も含まれてしまっているため、その分を差し引き当期の売上を算出します。

〇前受金の相殺

収益の計上では前受金と相殺させ、差額は売掛金で計上します。

前受金の残高:100,000-35,000=65,000円

売上420,000-前受金65,000=売掛金355,000

②工事完成基準

※仕訳なし

工事完成基準の場合、完成して引き渡した時に原価および収益を計上するため

未完成の現時点では収益と原価の計上はしません。

完成時

例題

X2年11月に受注制作のソフトウェアが完成し、残金600,000円を現金にて受け取った。

当期に発生した売上原価は45,500円である。

①工事進行基準

収益の計上

現金600,000/売上245,000
/売掛金355,000

売上原価の計上

売上原価45,500/仕掛品45,500

〇収益の計上

現金600,000-売掛金3555,000=売上245,000円

②工事完成基準

収益の計上

現金600,000/売上700,000
前受金100,000/

売上原価の計上

売上原価130,000/仕掛品130,000

受注制作のソフトウェアが完成したため、収益と原価を計上します。

今まで発生した費用は仕掛品で計上しているため、仕掛品から売上原価へ振り替えます。

仕掛品:6,500+78,000+45,500=130,000

まとめ

今回は受注制作のソフトウェアの仕訳方法について解説しました。

収益を一時点によって認識する場合は工事完成基準が適用され、完成時に収益および原価を計上します。

しかし、新収益認識基準では、要件に1つでも当てはまれば、一定期間にわたって収益を認識する工事進行基準が適用されるので気を付けましょう。

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